Technical data技術資料
フレキシブルチューブ・伸縮管継手の不具合事例
チューブ材料であるステンレス鋼について
弊社のチューブ材質はオーステナイト系ステンレス鋼を使用しております。
炭素鋼にクロムを添加していくと錆にくくなり、著しく「もち」が良くなることが発見されたのが、ステンレス鋼の始まりです。
オーステナイト系ステンレス鋼はさらにニッケルを加え、耐食性を高めたもので、材料の伸びも優れている為、
加工し易く、多くの用途に使用されています。さらに、オーステナイト系ステンレス鋼は他の品種と異なり、磁性を持ちません。
オーステナイト系ステンレス鋼として、もっとも一般的なものは、18-8ステンレスと呼ばれる鋼種でクロムが18%、
ニッケルが8%含まれています。
フレキシブルチューブの割れ形態一覧
一般的なチューブの亀裂形態
1,疲労破損
疲労によるチューブ割れは伸び・くびれなどの外形変化を伴いません。
また、割れが生じた破面は、起点から徐々に伝播した正味の疲労破壊の領域と最後に急速に破壊した領域が見られ、
前者はマクロ的に平滑なのが特徴です。このチューブ割れは繰り返しの応力作用により生じます。(下記写真参照)
■ミクロ組織写真(亀裂発生箇所)
■マイクロ(微視的)観察
疲労破壊の破面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した場合、ストライエーション(縞状模様)が見られます。
割れの進行方向
■フレキシブルチューブ・伸縮管継手の疲労破壊の事例
事例①
許容を超えた変位で使用されたため破損
製品:伸縮管継手(125Ax8山x295EL)
図面上のY軸方向の許容変位が2.7mmのところを30mm以上の変位量でご使用され、約1年間で疲労破壊に至りました。
伸縮管継手は配管のズレを吸収するものではありますが、計算上の変位量を超えて使用されると早期破損に至ります。
事例②
誤った配管状態によってベローズが疲労破壊
製品:伸縮管継手(125Ax10山+10山x400EL)
誤った配管によりベローズが変形し、ベローズと内筒が接触することにより1年6ヶ月で破損。
ベローズが本来の性能を発揮できず、応力集中を受けた部分が疲労破壊に至った事例です。
正しい配管方法でご使用頂かないと破損に至ります。
ベローズが変形したことにより ベローズの動きが規制され、破損に至る
内面にある管(内筒)と接触
事例➂
捻じれ配管により首元に応力集中を受け疲労破損
製品:ステンレス製フレキシブルチューブ(10Ax1W/Bx1200AL)
配管下側の首元部分のチューブ谷部円周方向に疲労破壊による割れが生じました。
流体は燃料油で絶えずエンジンの振動は掛かりますが、ねじれが発生していることにより、固定端となる首元部分に
応力集中を受け、破損に至りました。フレキシブルチューブは振動や変位は吸収しますが、ねじれに対しては耐性が低いため、
ねじれが生じないご使用をお願いしています。しかし、実際に配管される業者様は漏洩が生じないように、
締付けを過度に行われるため、ネジ構造ですと締めれば締めるほど、ねじれが生じます。
配管現場でねじれが生じないよう、作業者に指導することが重要です。
ねじれ状態で使用
事例④
低圧の方が揺れが大きくなった振動配管
製品:ステンレス製フレキシブルチューブ(50Ax1W/Bx1100AL)
振動配管でご使用され、給水用(圧力1.0MPa)と排水用(圧力0.1MPa)の2本で使用されてました。
しかし、低圧の方のフレキシブルチューブばかり破損する事例があり、
現場を確認したところ、排水用(圧力0.1MPa)の方がフレキ中央部分の揺れが大きくなっていました。
フレキシブルチューブは柔軟ですが、内圧が高くなると硬くなります。
上記の破損は柔軟性を保っている状態で振動を掛けられたことにより、
揺れ(繰り返し変形)が大きくなり、疲労破壊に至った事例です。
同じように使用されていても、温度や内圧が違えばフレキシブルチューブの挙動が変わります。
動きが大きくなると応力が大きくなるので、それだけ疲労破壊に至る時間が短くなります。
2,応力腐食割れ
応力腐食割れは腐食因子と応力因子の共同作用で起こるオーステナイト系ステンレス特有の割れで
一般には塩素イオンを含む環境に引張応力のかかった状態で置かれると発生します。
この割れは塩素イオンによる不動態皮膜の破壊→活性溶解→亀裂発生、伝播を繰り返すことにより進展するもので、
樹枝状の割れ形態となります。
■フレキシブルチューブの応力腐食割れの事例
事例①
製品:ステンレス製フレキシブルチューブ(20Ax1W/Bx1200AL)
応力腐食割れの特徴としては、樹枝状の割れが断面ミクロ写真に現れていることと、
主に塩素分が検出されていることが判断基準となります。
応力腐食割れの防止には、SUS316L等の耐食性の高い材料選定を行います。
付着物の成分よりCℓ(塩素分)検出 樹枝状の割れ発生
3,粒界腐食
腐食が結晶粒界に沿って進行する形の局部腐食で、この腐食が内部へ深く進行すると結晶粒がぼろぼろと脱落していきます。
溶接の熱影響、熱処理の過程、高温での使用などにより、ある条件の加熱を受けた部分が腐食環境に置かれると生じます。
■フレキシブルチューブの粒界腐食の事例
事例①
製品:ステンレス製フレキシブルチューブ(150Ax1W/Bx1000AL)
使用条件では温度が770℃となっており、比較的高温に強いSUS321を選定しご使用頂いておりましたが、
局部的に高温に曝され、その部分のみ変色がひどく、変色のひどい箇所より洩れが生じていました。
断面ミクロ写真で粒がハッキリ見える状態となっており、鋭敏化された状態です。
割れも結晶粒に沿った割れであるため、粒界腐食により生じた割れと判断致しました。
ステンレス鋼の耐食性
ステンレス鋼は表面に不動態化皮膜が形成されているため、錆びにくいという特長があります。
しかし、何らかの要因でこの不動態化皮膜が破損することにより腐食致します。
①全面腐食
不動態化できずに全面が活性にあるような環境で起こり、腐食が全面にわたって均一に進行します。
②孔食
塩素イオンなどハロゲンイオンによる不動態化皮膜破壊が発端となって起きる局部腐食です。
➂すきま腐食
反応機構は孔食とほぼ共通であり、塩素イオン濃度の影響が大きく付着物の下に生じます。
しかし孔食とは異なり、すきま腐食は目に付かない物理的なすきまで発生する腐食です。
■フレキシブルチューブの孔食の事例
事例①
外部からの腐食
製品:ステンレス製フレキシブルチューブ(20Ax1W/Bx1100AL)
外部からの孔食は外装ブレイドが変色している箇所が腐食されていることが多く、
潮風等による塩害で腐食している事例がほとんどです。
海岸沿いの屋外配管に多く見られ、対応策としては外装にNBRなどの被覆を提案しております。
SEM画像外面側 内面側
事例②
内部からの腐食(冷却水)
製品:ステンレス製フレキシブルチューブ(8Ax1W/Bx900AL)
冷却水でのご使用で腐食に至った事例です。
片端の首元に液だまりが見られ、他端には変色も認められず、変色の生じていた方に腐食孔が生じ、塩素の検出もありました。
液だまりが生じることにより、冷却水中に含まれる塩素分が濃縮され、濃縮された塩素分により、
ステンレス鋼が腐食され、腐食孔を生じた事例です。
洩れ側の金具付近内面状態
洩れの逆側内面状態
最後に
フレキシブルチューブ・伸縮管継手は、主にステンレス鋼で製作していますので使用用途によっては疲労破壊や腐食が生じます。
半永久的な配管とはなりえず、消耗品であり定期的な交換が必要となります。
しかしながら、その交換の周期を少しでも延ばすということがお客様からのご要望であり、
また、地球環境を考慮した資源的な面からも必要です。当社はお客様に安全な製品を、安定的に供給し、
安心してご使用いただくために、万全な品質管理体制を構築しておりますが、下記の事項についても、
ご配慮頂きますようお願い致します。
①正しい配管方法で取付ください。
誤使用は、短寿命に繋がります。
②正確な情報を伝達下さい。
圧力、温度だけでなく配管状況等も教えて頂くことで、正しい商品選定が可能です。
➂気になる点については、お問い合わせ願います。